火山活動研究分野の定常観測ネットワーク


TCP/IPネットワークを用いたデータ伝送

北海道内の観測点で得られるデータは,全て札幌キャンパスへ送られて集約され,有珠火山観測所へも伝送されています.道内の5火山で得られる様々な種類のデータ(地震データ,傾斜・ひずみデータ,空振データ,GPSデータ,画像データ,潮位データ等々)を,データの質を低下させずに効率よく伝送するために,私たちは火山観測網の基盤観測点を,インターネット技術で利用されているTCP/IPプロトコルで結び,独自のネットワークを介して観測データを集約しています.TCP/IPネットワークを構成するための機器は家電量販店でも容易に入手できるため,すぐに伝送網の不具合を修正することができます.また,このシステムは,最低限のネットワークに関する知識があれば,データ伝送先や伝送経路を容易に更新できるため,『自由度の高い観測システム』といえます.

有珠山の噴火予知研究観測網
2000年噴火を期に,有珠山北麓にあった有珠火山観測所は長流川東側の壮瞥町立香に移転しました.噴火活動が落ち着きを見せた2000年夏頃から,次の噴火を見据えて観測網の強化を図り,現在では地図に示した箇所に常時稼働する多項目観測点を配置しています.


図1: 有珠山の定常観測網




有珠山以外の噴火予知研究観測網

北海道駒ヶ岳,樽前山,十勝岳,雌阿寒岳の噴火予知研究観測網についても,順次TCP/IPネットワークを利用したシステムに更新しました.各火山にはそれぞれデータを集約する『分室』を設け,データ伝送効率だけでなく現地での作業効率の向上を図っています.有珠山を含め,各火山の観測点配置は,火山の地形やインフラ整備の状況に大きく影響されています.道南〜道央に位置する北海道駒ヶ岳と有珠山では,山体の近傍に多くの町や集落が発達しており,電気や電話といった観測,データ伝送に必要なインフラを多くの観測点で利用することができます.

有珠山は山体が小さいため,市販のSS無線装置を用いて山頂火口原のデータを山麓に伝送しています.札幌に一番近い樽前山は,山麓に広大な森林を有しているため,網の目のように林道が整備されているものの,電力や通信線を自前で用意しなければならなかった観測点が多くあります.それでも山体を囲むように観測点を設けることができました.データを集約する分室は,樽前山近傍でのインフラの状況に合わせて,山体南西側の白老と北東側の支笏湖畔の2箇所に設けています.

前述の3火山と異なり,十勝岳と雌阿寒岳では山体を取り囲むような観測網を構築できておりません.十勝岳は南北に連なる峰の1つで,山体の東側は森林が深く観測点の設置やデータ伝送路の確率が非常に困難です.また雌阿寒岳も西麓の雌阿寒温泉以外の集落は山体から遠く,現段階では微小地震の震源決定をするような観測網にはなっておりません.


図2: 駒ヶ岳の定常観測網




図3: 樽前山の定常観測網


図4: 十勝岳の定常観測網


図5: 雌阿寒岳の定常観測網